『天景』は岡田貞峰の第三句集。俳人協会評議員。「馬酔木」顧問。十五句抄。
氷河滝滔々と雲を引き落つる
穂高小屋銀河に倚りて灯を点す
落葉松の琥珀に釣瓶落しの日
白妙の凍鷺は添ふ影もなし
泉声に生れ綿虫の芯あをし
遠雷に絵硝子の使徒蒼く立つ
峠雲垂れて暮雪を篩ふなり
霧氷散る微塵の音の空ふかし
岩尾根の万骨凍てし中に泊つ
鳶舞へる胸の白斑や漁始
踏青や堰の水より野は覚めて
潮騒も夜へ傾けり籐寝椅子
波乗のまつしぐらなる手の翼
吊革の隣の顔も冬夕焼
凍瀧の一碧ゆるむべくもなし