愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

「アテネに死す」マックス・フリッシュを読む

アテネに死す https://www.amazon.co.jp/dp/4560042810/ref=cm_sw_r_awdo_2M5EDVXJZGRH180WDW2W

 

オイディプスは自己悲劇的過ぎる。暗夜行路は楽観的すぎる。より具体的であるが、ひとつの典型的な現代人の型としての象徴をつくっての意識の流れてきな書き方。
後半におけるアテネ以後のミステリー的な仕掛けの作り方は読ませる。
ただ、どうしてもそこまで過去やザベートに固執するはずがないから、違和感がぬぐえない。ザベートはそういう意味で、ファーベルにとってロリータではない。
だが、現代において自己とは何なのか、ということを考える上で、カフカの「城」などと並んで、ひとつの重要な小説かもしれないなと思う。


f:id:inamorato:20220319140333j:image

観潮船渦の形に梶を切る 石井いさお

筑波嶺の二峰相寄る冬日和 矢内修一

めくるめくほどの紺天鷹渡る 横澤放川

子鹿来て旅愁影さす蕨餅 水原秋桜子

白梅のふふむも散るもまた静か 徳田千鶴子

開戦の日ぞ海鳴りを鎮魂歌 岡田貞峰

鷹をとめ天領杉の空ふかし 同上

星は群れ月は孤りの枯野旅 渡邉千枝子

根岸善雄様を悼む

落葉松の芽吹を待たで篩の元へ 白澤よし子

声おとし寒雁よぎる山上湖 同上

土に売る土の匂ひの葱牛蒡 橋本栄治

寒餅の息をするかに泡ひとつ 橋本栄治

店先に吊す野兎深雪晴 同上

片方はまだうなばらや桜貝 野中亮介

取り分けの大きな木匙春野菜 同上

叱る母亡くて浅蜊の砂を吐く 同上

割り勘を除かれて居る落第子 同上

霙るるや列島に濃き潮流れ 伊丹さち子

月おぼろ下駄をひきずる下駄の音 那須淳男

根岸善雄氏を悼み

遺意伝ふ諷示なるやも涅槃吹 平子公一

竹林へ利休偲びの春の雪 同上

光明の詩片となりて春の川 同上

舷窓の陸やさしくて春の雪 工藤義夫

 

 

マックス・フリッシュ

われわれはまさに我々が愛している人間についてこそ、かれがどんな人間かを言うことはできない。われわれはただ、彼を愛するだけである。そしてまさにこの点にこそ、愛が、愛の驚異があるのだ、愛が我々を生あるもののなかに漂わせておく点にこそ

マックス・フリッシュ「アテネに死す」

あるところでマルセルが言った、知ってるかい、死というのは女性なんだ!(テユ・セ・ク・ラ・モール・ヱ・ファム)わたしが彼を見つめると、そして大地も女性なんだ!(ヱ・ラ・テル・ヱ・ファム)そう彼は言った。

 

西川火尖 第一句集『サーチライト』を読む

『サーチライト』は西川火尖の第一句集。序:石寒太

「炎環」同人。

 

同著については

「週刊俳句」の石川火尖第一句集『サーチライト』特集に句集評を寄稿したので、下記リンクを参照。

週刊俳句 Haiku Weekly: 第777号 2022年3月13日 (weekly-haiku.blogspot.com)

2022年3月13日分。

週刊俳句の777号もまためでたい。

*1

 

 

*本書は著者よりご恵贈頂きました。記して感謝致します。

*1:なお、評論賞は私の編集部への送付ミスで、準賞の受賞が正しい