愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

朝顔


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大飛瀑藍ひらめくは秋なりけり 渡辺水巴

満月の秋到らんと音絶えし 飯田龍太

むさし野の秋は白雲よりととのふ 上村占魚

人声のうしろより来て秋立つか 加藤楸邨

今朝九月草樹みづから目覚め居て 中村草田男

冷え冷えと闇の定まる初秋かな 飯田蛇笏

新涼のいのちしづかに蝶交む 松村蒼石

 

 

 


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海の日の水はじきたる子の背中 市村健夫

男手に育ちし男の子冷し瓜 緑川啓子

ゆづり葉や生きるといふは遺さるる角川春樹

落ちてすぐ風に解かるる落し文 北川みよ子

己が身の短き影や炎天下 石井清一郎

月光に愛されて滝ますぐなり奥坂まや

いつさいの音のはてなり雪ふるおと 同上

はるのくれ天金の書に死の香あり 同上

良夜なり漆の卓に水こぼれ 同上

いちじく裂く六条御息所の恋 同上

書を愛し秋海棠を愛すかな山口青邨

『山籟』平手ふじえ を読む

『山籟』は平手ふじえの第一句集。序句 中西舗土 跋 藤本美和子 「雪垣」同人、「泉」会員。

前田普羅研究をライフワークとする。俳人協会栃木県支部支部長。半生を見る思い。角川書店。2022年 立秋忌が奥付の発行日となっているのも心憎い演出。

風の音高嶺に集め木花咲く

笛の子の白き肘張る宵祭

冬近し滝の骨格見えて来し

サルビアや昼闌けて啼く放ち鶏

白鳥来あまつくもゐの匂ひして

母は掌に陽射しころがす寒の入

半跏趺坐天衣の襞の涼しさよ

蛇苺山籟ひたと止むところ 

嬬恋の山の匂ひの白雨かな

甲斐駒と光りあふ里柿吊す

柚子湯出てものわかり良くなりにけり

汐留の万の灯を漕ぐ月の船

八溝嶺へ雲走る日や子持鮎

年の火や毛野の連嶺楯として

根上りの松の竜鱗淑気満つ

本著は著書より寄贈を受けました。記して感謝致します。