物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子
蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規
虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治
昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上
八月が去る遠き蟬近き蟬 同上
福島市飯坂医王寺
二本松鬼女伝説のある安達ケ原
黒塚の日暮をいそぐ蝉の声 同上
揚雲雀大河は水の音立てず 同上
ふかぶかと空の底あり梅開く 同上
天心も湖心も暗し稲つるび 同上
枯れ急ぐものより風に吹かれをり 同上
身に入むや父母の無き世をなきやうに 同上
順に死ぬといふこと田植終りけり 同上
湖は死後のしづけさ夕桜 同上
戒名を称へてをれば初蝶来 同上
かの日より妻には妻の炎暑あり 同上
霧を来て霧よりあはきもの羽織る 同上
われを待つ花野の奥の一墓標 同上
咳ひとつ壁にひびけり無言館 同上
戦没者諸君参集青葉闇 同上
生者より死者の下しき昭和の日 同上
耳底に音の届かず雪が降る 同上
冬の葦枯れざる音をたてて闇 同上
等伯の襖の余白さへづりぬ 同上
あたたかや千手の二手は掌を合はせ 同上
遺影ふところに茅の輪をくぐりけり 茨木和生
はらはらと水ふり落とし滝聳ゆ 桐山大志
軍鶏老いて金秋の声絞りけり 同上
真つさらな朝ゆきわたる雪野かな 同上
寒鯉を分けて寒鯉すすみけり 同上
なだめつつ使ふ手足や冬に入る 藤田和代
泥葱を説き伏すやうに剥いてをり 間谷雅代
速くなる神楽囃子や大蛇出づ 藤井彰二