愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

初雪


f:id:inamorato:20240113155054j:image

物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子

蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規

虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治

昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上

八月が去る遠き蟬近き蟬 同上

福島市飯坂医王寺

芭蕉師弟義経主従夏山路 同上

二本松鬼女伝説のある安達ケ原

黒塚の日暮をいそぐ蝉の声 同上

揚雲雀大河は水の音立てず 同上

ふかぶかと空の底あり梅開く 同上

天心も湖心も暗し稲つるび 同上

枯れ急ぐものより風に吹かれをり 同上

身に入むや父母の無き世をなきやうに 同上

順に死ぬといふこと田植終りけり 同上

湖は死後のしづけさ夕桜 同上

戒名を称へてをれば初蝶来 同上

かの日より妻には妻の炎暑あり 同上

流鏑馬の馬の荒息風光る 同上

霧を来て霧よりあはきもの羽織る 同上

われを待つ花野の奥の一墓標 同上

咳ひとつ壁にひびけり無言館 同上

戦没者諸君参集青葉闇 同上

生者より死者の下しき昭和の日 同上

耳底に音の届かず雪が降る 同上

冬の葦枯れざる音をたてて闇 同上

等伯の襖の余白さへづりぬ 同上

あたたかや千手の二手は掌を合はせ 同上

遺影ふところに茅の輪をくぐりけり 茨木和生

はらはらと水ふり落とし滝聳ゆ 桐山大志

軍鶏老いて金秋の声絞りけり 同上

真つさらな朝ゆきわたる雪野かな 同上

寒鯉を分けて寒鯉すすみけり 同上

なだめつつ使ふ手足や冬に入る 藤田和代

泥葱を説き伏すやうに剥いてをり 間谷雅代

速くなる神楽囃子や大蛇出づ 藤井彰二