愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2024-01-01から1年間の記事一覧

原民喜

風景水のなかに火が燃え夕靄のしめりのなかに火が燃え枯木のなかに火が燃え歩いてゆく星が一つ

猪口布子『水入りの小瓶』(朔出版、2023年)を読む

『水入りの小瓶』は猪口布子の第一句集。「香雨」同人。帯・片山由美子。俳人協会会員。十五句抄。 風鈴や窓開けしまま眠る村 黄落や背に頬つけて二人乗り 風光る手話の手と手の踊りづめ 苗木売ひとつ売れては並べ替へ 月山も蔵王も真白冬日和 ガラス窓叩き…

芋茎

『批評』 巻頭言 西村孝次 われわれの求め願ふところは宣言ではない、生成である。肯定ではない、懐疑である。狂信ではない、情熱である。詮索ではない、批評である。

加藤又三郎『森』(邑書林、2021年)を読む

『森』は加藤又三郎の第一句集。「鷹」同人。序・小川軽舟。俳人協会会員。十五句抄。 虫の音はかえすことばの浮かぶまで 浮寝鳥夕星滲み出るごとく 後輩の女おでんに泣きじゃくる 年礼や浄瑠璃坂の上の月 立春のピクルスに刺す星条旗 春月や斧の重さの赤ん…

秋の蝶

サントブーヴ『我が毒』 「21 批評について」 パリでは、真の批評はしゃべりながら出来上がる

上州望郷 伊藤信吉

ふるさとは 風に吹かるる わらべ唄 今朝の秋 ふるさとに似たる 風ぞ吹く

懽の歌 春の野のうららの妹よ 相見しはいとど遥けし その月日心に堪えて 今日しもぞ直に逢ひつる 今日しもぞ清に逢ひつる 妹が頬、妹が口もと 薄らひも籠れる眉と 山本健吉

スーパームーン

静心柿の一葉の落ちにけり 山本健吉

後の月

順徳院「八雲御抄」 おほよどの浦にも今は松もなく、住吉の松にも浪かけず。されどもなほいひふるしたるさぢをよむべし。 かくは思へども、今は又珍しき事どもいできて、昔のあとにかはり、一ふしにてもこのついでにいひつべからむには、やうにしたがひて必…

定山渓・羊ヶ丘展望台 補遺

詩人は常に、自己をより価値あるものに服従させなければならない。芸術の発達は不断の自己犠牲であり、不断の自己の消滅である。エリオット

羽田

どうでもいいことを話しかけたくなる人は、どうでもよくない人 黒川伊保子

定山渓

頂上や枯れ苅萱は雲を切る 森俊人 小春日や音の聞こゆる砂時計 田丸勝 絵葉書の切手のゆがむ秋暑かな 鳥居三枝 籐椅子の亡夫の窪みの浅からず 桝本豊子 千年の杉ある宮の茂りかな 福田記子

羊ヶ丘展望台

ドーナツの穴覗きあひ夏休 城台洋子 秋日照る磨きぬかれし甲板に 緑川啓子 白樺に朝空透きて九月来ぬ 布施政子 法師蝉一途といふは心打つ 馬屋原純子 風紋にわが影を曳く晩夏光 川内谷育代 はらからの世辞や苦言や古団扇 斉藤玲子

円山動物園

酔ふほどに余呉のしづけさ紅葉鮒 大谷弘至 むさし野は見あぐる槻や七五三 水原秋櫻子胸の火を掻き熾したり曼珠沙華 德田千鶴子

大通公園 テレビ塔

生きてあることの嬉しき新酒かな 吉井勇

中島公園

川の香のふと上がり来る遠花火 植松洋子 かけ出して春光の子となりてゆく 本田巌

AOAO  藻岩山

廃駅は日と綿虫のただなかに 加藤又三郎 北狐漁船のペンキ剥落す 同上 冬館足音突如として醒める 同上 パーティーの皿を触ってから寒し 同上

えこりん村閉園

白帯が叩く畳や寒稽古 五省人

澤田和弥『革命前夜』(邑書林、2013年)を読む

『革命前夜』は澤田和弥の第一句集。「天為」同人。序・有馬朗人。十五句抄。 うららかな光漏れくる化粧室 木の匙ですくふ黄金の雲丹の山 とびおりてしまひたき夜のソーダ水 短夜のチェコの童話に斧ひとつ 夕焼に一点サン・テグジュペリの機 便所より演歌聞…

石井稔『顔の原型』(俳句アトラス、2024年)を読む

『顔の原型』は石井稔の第ニ句集。「好日」同人。現代俳句協会会員。序句・髙橋健文。十五句抄。 卵焼さまして甘し花曇 内側に開く窓なり十三夜 まつすぐに物沈みゆく寒さかな 恐竜の骨は飴色四温光 夜半の春鍋の余熱で菜を湯がく ドアノブを磨く五月の風の…

秋の風鈴

彼は定住の地を見て良しとし、 その国を見て楽園とした。 彼はその肩に下げてにない、 奴隷となって追い使われる。 ロバの子をぶどうの木につなぎ、 その雌ロバの子をよきぶどうの木につなごう。 『旧約聖書』「創世記」

過去は一切の比喩に過ぎない 寺山修司

藤井あかり『メゾティント』(ふらんす堂、2024年)を読む

『メゾティント』は藤井あかりの第ニ句集。「椋」同人。序句・石田郷子。十五句抄。 君からはここが陽炎ひてゐるのか 人抱けば腕の中の青嵐 どこにゐても虹を教へてあげるから チェイサーの後のひとくち枯木星 早春の波次々とひれ伏せる 百千鳥さへ聞こえな…

朝顔

麦の芽に日当るごとく父が欲し 法医學・櫻・暗黒・父・自瀆 母は息もて竈火創るチエホフ忌 暗室より水の音する母の情事 ラグビーの頬傷ほてる海見ては 車輪繕う地のたんぽぽに頬つけて 鷹哭けば鋼鉄の日に火の匂ひ 以上、寺山修司

朝顔 押し花

鬼の子よ汝が啼けば夜のどつと来る 篠崎央子 フィレ肉に塩ひとつまみ春の雷 石井稔

居待月

母の句のほとんどは青春時代に詠んだものである。そしてその青春を経て三十歳を過ぎると、今度は父の句を詠みはじめた。 「父還せ 寺山修司『五月の鷹』考」澤田和弥

満月

雪・月・花と戦うつもりで詠む 河野里子

名月

失脚の暴君の墓泉わく 澤田和弥

月見

まんさくや呼ばれ振り向くクラス会 石井稔 きさらぎや更地に黒き竈跡 同上 丸文字のパスタのメニュー春休み 同上

長瀞3

緑陰のとぎれ光の芝生かな 柴田多鶴子 鳰の子の潜りて作る水ゑくぼ 同上 地をはがすごと摘みにけり寒の芹 出石すが代 先生は二丁拳銃水でつぱう 別所琴美 風を切る男なにはの夏羽織 岩下美鈴 夾竹桃骨なき墓を洗ひけり 藤井道 燕の子誰にも代はりなどをらぬ …