愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2024-01-01から1年間の記事一覧

草の餅

難波門に漕ぎ出て見れば神さぶる生駒高嶺に雲そたなびく

岩田奎『膚』(ふらんす堂、2022年)を読む

『膚』は岩田奎の第一句集。「群青」会員。跋佐藤郁良、帯 櫂未知子。十五句抄。 耳打のさうして洗ひ髪と知る 旅いつも雲に抜かれて大花野 をりからの夜空の色の日記買ふ 仕舞ふときスケートの刃に唇映る いづれ来る夜明の色に誘蛾灯 憲法記念日白馬白蛇みな…

上巳

ひとしづくほどにひひなの灯をともす物いふ声の細く涼しき

時間はわたしを引き裂く虎であるが、虎はわたしだ ホルヘ・ルイス・ボルヘス

カラテ界のあしたのジョー星飛雄馬を探せ 梶原一騎杯記念 関東選抜大会

Simply the thing I am shall make me live.

野中亮介『つむぎうた』(ふらんす堂、2020年)を読む

『つむぎうた』は野中亮介の第二句集。「花鶏」主宰、「馬醉木」同人。俳人協会評議員。十五句抄。 遙かより帰るところの涼しくて わだつみや月下に壱岐のひと雫 天の川胸にあるとき言葉美し つまさきに力をこめて巣立ちけり 冬帽を握りしめたる正座かな 薫…

尿素結晶化実験

my way of life Is fall'n into the sear,the yellow leaf. 翌朝

And shake the yoke of inauspicious stars From this worldweary flesh.

続羽鳥湖

雪の果はるかに火吹く山を恋ふ 高田蝶衣 女の目のなかにはね、ときどき狼がとおりすぎるんだよ 三島由紀夫

羽鳥湖

ゆらゆらと地球へしだれ桜かな 松尾隆信 花ふぶく夜の鼓動に眠り得ず 角川春樹 花吹雪すなはち詩歌ふぶきけり 小島健 名月の大きく山を離れけり 三原白鴉 猫の子に登校の列丸くなる 森田千枝子 天の川真夜黒潮とゆれかはす 渡辺恭子

竹 萩原朔太郎

ますぐなるもの地面に生え、 するどき青きもの地面に生え、 凍れる冬をつらぬきて、 そのみどり葉光る朝の空路に、 なみだたれ、 なみだをたれ、 いまはや懴悔をはれる肩の上より、 けぶれる竹の根はひろごり、 するどき青きもの地面に生え。

雛飾る

年新たいつもの道を海に出て 津川絵里子

恵方巻

はりはりとセロファンは鳴り花束の多く行きかふ街に風吹く 横山未来子 樹下に餌を隠す鴉のゆふやみよ言葉かぶせてひとのゆふやみ 小原奈美 口語「た」に代わる短歌における「ぬ」の重用 高良真美 口語の中に投げ込まれた文語の異物感は、発話の自然さを壊し…

年の豆

ゆき暮れて雨もる宿やいとざくら 与謝蕪村 影は滝空は花なり糸桜 加賀千代女 大雪にうづまつて咲く椿かな 村上鬼城 藪椿しづかに芯のともり居る 吉岡禅寺洞

水仙

木蓮に白磁の如き日あるのみ 竹下しづの女 うつうつと雨のはくれむ弁をとづ 臼田亞浪

冬薔薇

春雪のとまりし肩をたたきあふ 石橋秀野 淡雪や昼を灯して鏡店 日野草城 ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ 同上 水草生ふひとにわかれて江に来れば 同上 たたずみてやがてかがみぬ水草生ふ 木下夕爾

曽根薫風『喜寿』(ふらんす堂、2023年)を読む

『喜寿』は曽根薫風の第一句集。「馬醉木」同人。俳人協会幹事・同岡山県支部顧問。序 德田千鶴子。十五句抄。 定まりて子にひき渡す凧の糸 母匂ふ陶枕かたく冷たくも 若水の上に日の差す岩の上 初電話胎児が腹を蹴るといふ 節分の雪や板書の手を止めて 画用…

聖歌隊胸の高さにひらきたる白き楽譜の百羽のかもめ 杉崎恒夫 たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台 同上 春雷のあとの奈落に寝がへりす 橋本多佳子

三回忌

雪掻の汗そのままに急須とる 岩田奎 くるくると出づる口紅蚊喰鳥 同上 面白い蟷螂生れつづくなり 同上

Bruit de l'eau / su de l'eau Ombre d'une feuille su une autre feuille

ふぐ刺し

耕や鳥さへ啼かぬ山かげに 与謝蕪村

初雪

物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子 蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規 虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治 昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上 八月が去る遠き蟬近き蟬 同上 福島市飯坂医王寺 芭蕉師弟義経主従夏山路 同上 二本松鬼女伝説のある安達ケ…

余瀬

神木をこぼるる鳥語冬あたたか 蓮實淳夫 落ちてより生き生き池の冬紅葉 同上 霜の花右は江戸への道しるべ 同上 歩足緩めて冬麗に身を任す 同上 紅の雲より氷あられかな 同上 いぬふぐり星のまたたく如くなり 高濱虚子

故宮

凍りゆるむ麦生畑の早桃はも 飯田蛇笏 谿空に錆びし日輪紙を漉く 長谷川素逝 峡より峡に嫁ぎて同じ紙を漉く 橋本多佳子 ぬくぬくと老いてねむれる田螺かな 原石鼎 三椏や皆首垂れて花盛り 前田普羅

カート・コバーン

レナード・コーエンをかけてくれ、そしたら俺はいつまでも歌えるから

三日

運命とはどこからかやってくるのではなく、人はそれを育みながら生きていく。生きるとは運命を開花させることである リルケ

二日

夏の日は母の烈しさ 総身を子に与へつつ燃え尽きゆきぬ 徳高博子 夕まぐれ油を移しつつ思ふあぶらの満ちてゆくはたのしゑ 岡井隆

元日

月は有明にて光をさまれるものから、影さやかに見えて、なかなかにをかしきあけぼのなり 『源氏物語』「帚木」

晦日蕎麦

金星から見ると この地球は どんなふうに見えるのだろう やはり空のなかほどに一つだけ 凍りつくようにふるえているのか 身内の闇をもゆり動かす星の瞬きは 孤独な天体同士が交わす通信だろうか 心のうちにバッハのオルガン曲が流れ 小川のせせらぎに水草が…