初暦知らぬ月日は美しく 吉屋信子
冬星につなぎとめたき小舟あり 杉山久子
蛇衣を脱ぎ少年の声太る 西村和子
紫陽花や単線海へ出るところ 同上
海紅豆沖はひねもす高曇り 同上
夏日燦うしろ姿の死者ばかり 同上
祭鱧今年は雨をとくと呑み 同上
常夜灯連ねて暗し秋隣 同上
噴き出せるホームの端の草涼し 同上
波涼し鳥海山の裾を入れ 同上
骨だけとなりし炎の大文字 同上
秋の声とはことごとくかの世より 同上
もてなしの露を打つたり漆椀 同上
炎熱へ息吐く金魚にも似たり 今瀬剛一
酒匂ふ男と歩く無月なり 同上
盆提灯伸ばす今瀬家と伸ばす 同上
裸なり海一点の翳りなし 同上
きらきらと水を運べる炎暑かな 同上
帰省子や唇紅くものを言ふ 同上
墓洗ふ母洗ふもみくちやに洗ふ 同上
始まりはふはりと浮いて桐一葉 同上
伊勢海老の脚を伸ばして氷鳴る 同上
青葉若葉滝壺に水つきささり 同上