愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

俳句

文旦

手袋や会社出づれば一人なる 宮崎淳 冬うらら順路に沿ふは途中まで 佐藤博美

桜湯 空2023年3月号4月号

初凪や女神へ酒の樽を割る 柴田佐知子 寒晴や懸垂の顔歪みだす 同上 薙刀を空へ突き出す飾り山笠 高倉和子 手拭の柄を揃経て夏祭 同上 馬の尾の大きくなびく飾り山笠 同上 いつせいに布巾干さるる祭あと 同上 オートバイ次々止まる卯波かな 中田みなみ 梅干…

雉2023年4月号

上棟の木組の匂ひ春立てり 田島和生 水車廻る水音春の立ちにけり 鈴木厚子

雉2022年11月号より

満州の盥のやうな大西日 西村千鶴子

ワンタン

柿日和一茶日和といふもよし 村上喜代子 海に立つ富士こそよけれ初日の出 高橋悦男 踊るこころ揺らぐこころに毛糸編む 谷口智行 閂は白樺一枝日雷 大木孝子 乗り継ぎて次がふるさと春隣 伊藤伊那男 秋燕忌一服の茶を熱うせよ 増成栗人 窓際のハンガー冬日吊…

湯気あげて湯葉を引きをり山眠る 西山睦 地の底の燃ゆるを思へ去年今年 桂信子 宇宙も洞なり地球こそ灯 佐怒賀正美 いち日をことば少なに返り花 南うみを 綿虫のやうにしづかに浮かびたし 同上 ほとけからほとけへ若狭しぐれかな 同上 猪の血糊の上を引き摺…

風重く水なほ重く白魚汲む 平田冬か 枯葦は風呼び風は雲を呼ぶ 川合憲子 枯色の海へ届けば青ふかし 浅川芳直 鳥帰る無辺の光追ひながら 佐藤鬼房

朧月夜

星光は闇払へざる氷かな 高柳克弘 馬上の子父を忘れて風薫る 同上 流木にナップザックと春コート 同上 春風や合羽用意のイルカショー 同上

うすいろの影をいくつも夜店の灯 森賀まり

にぎやかに盆花濡るる嶽のもと 飯田蛇笏 脳味噌をたたらふむなり風邪の神 阿波野青畝 ほうたるの草を離れて遊行かな 京極杞陽 杖とめて光陰花とわれのひま 皆吉爽雨 水澄みて水澄みて人新たなり 星野立子 墜ちてゆく 炎ゆる夕日を股挟み 三橋鷹女 花の雲抜く…

六義園

切株のどこに触れても暖かし 行川行人 懐手海に出ぬ日は海を見て 矢須恵由 鳥つるむ直立こそを樹のかたち 岩永佐保 うしほ濃き午後の海峡つばくらめ 同上

花の雨

京女花に狂はぬ罪深し 高浜虚子

種袋

うすうすと晩年揺らす春夕焼 久行保德 日を返す棹や近江の春の水 安原溪游

枯蘆の水に映りて影も枯る 名和未知男 向き合うて茶を摘む音を立つるのみ 皆吉爽雨

みかも山

洩るる音のみな柔らかく秋簾 丹羽啓子 花火師の起居闇より濃かりけり 村上絢子 病蚕の虚空に糸を吐くしぐさ 萩庭一幹 川面に灯の揺れはじむ夕桜 長田輝男 白樺の間に無音の結氷湖 伊藤厚子 俎に色染むるまで刻む芹 高柳満子 晩年の命なほ濃し針始 中山朝子 …

『航路』小野恵美子(2023年.ふらんす堂)を読む 

『航路』は小野恵美子の第五句集。馬醉木同人。15句抄。俳人協会幹事。本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。 白南風の帆やふるさととなす他郷 好晴の画布のうちそと落葉降る 邂逅の大き手套につつまれぬ 独り居も佳しや六日の菖蒲風…

『飛英』片山由美子(2019年.角川書店)を読む 

『飛英』は片山由美子の第六句集。香雨主宰。 15句抄。俳人協会常務理事。本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。 八月や花はひかりを引いて落ち 頷いてゐてうべなはず胡桃割る きしむまで神輿締め上げ豊の秋 帆を張るがごとくに幟浦祭…

山桜

木瓜を見てをれば近づきくる如し 石田波郷 わがまへに木瓜燃えたてりわが性も 加藤かけい 木瓜の雨ほのかに鯉の朱もうかぶ 水原秋櫻子

身じろげばこぼれむとするさくらかな 轡田進 日と空といづれか溶くる八重桜 渡辺水巴 一二片散りてときには花吹雪 山口波津女 苗代や杏の花の花ぐもり 相馬遷子 海棠の花しづくする甘雨かな 村上鬼城 海棠のはなやぐ空も潮ぐもり 草間時光

岩は皆渦潮しろし十三夜 水原秋櫻子 野遊の心のままにわかれけり 水田むつみ ポンペイの松風を聴き歳逝けり 中村和弘 なみなみと湛ふるものを去年今年 正木ゆう子 初風にもつと自由になればいい 小林貴子

辛夷の芽

依頼者と方針合はぬ夜は幾度寝返りしても心昂ぶる

白衣観世音

紅梅や横顔美しき観世音

村上鬼城記念館

休館やないか

春の雪 pollen

山葵田の湧水迅し暮の秋 松田碧霞 山葵田のたかぶる水音冬隣 同上

瀝 2023年 春 第77号 より

潮鳴の海光に立つ絵踏かな 西嶋あさ子 ある朝の鵙聞きしより日々の鵙 安住敦 どのような問題でも、有季定型でも、一句の良し悪しでも、きちんと向き合って話せる仲間を句会の指導者は持っているだろうかとよく思う。お友達感覚では俳句が悲しむだろうと思う。

月朧

わが恋は知る人もなしせく床の涙もらすな黄楊の小枕 式子内親王

いぶき 令和五年二月号より

机ひとつ寝台ひとつ冬の月 黒田杏子 木枯しや夢の続きを夢で見る 今井豊 悼む 友岡子郷氏 雁や泪こぼさず訃報聴く 中岡毅雄 吾亦紅短く弔意つたへつつ 同上 すこしづつ悼むこころや草の花 同上 つぶやきにかよふさびしさ冬の綿 同上 鶏頭や流れて雲の形なさ…

奄美大島

ガジュマルの木蔭を風と行くならむ

滝令和五年二月号より

鳴りながら冬の風鈴おろされぬ鈴木花明 バレリーナの背のやはらか十二月 芳賀翅子 小六月犬に生れて犬と居る 栗岡信代 寒菊や微かに残る飛行音 鎌形清司 黒波の浜に合掌冬たんぽぽ 八島敏 凍滝の内に秘めたる流れかな 阿部華山 たましひはいつも枯野に置いた…

節分

大空に根を張るつららだと思へ 櫂未知子 初磐梯裳裾を湖に濡らしけり 佐久間晃祥 初日受く日毎に祈る神の山 岡崎宝栄子 薺打つひとりに余ることばかり 徳田千鶴子 人日の手に頂きて新刊書 望月百代 添ひ寝して子に初夢を蹴られけり 五十嵐かつ 富士見ゆる所…